しあわせとふしあわせのバランス





 とことん、ついてない。




 多分、あの頃からだと思う。
 木原邸の事件のあと、バラエティーに移動してからやけに災難が増えた。
 …いや、違うかな。
 その後で、探偵さんと仲良くなった後からかもしれない。


 はじめのうちは何で俺が、って思う気持ちも無かったわけじゃないけど。
 なんだかもう諦めてるんだよね。


 別に仕事が大変とかじゃなくて。
 それなりにうまくやってたんだ、バラエティーでも。


 だけど、やっぱり入院は効いたなあ。
 出費ばかりで収入はないし。
 保険には入ってたから困ることはなかったけど、退院後のことまで面倒見てくれないし。
 気付いたら貧乏生活に突入してて、入院してた分仕事にも影響、結構出たし。

 でも、いいことが無かったわけじゃなくて。
 彼女がレギュラー持ってる番組でずっとついてるから、顔ぐらいは覚えてもらえた。
 …入院したときには、お見舞いにも来てもらえたし。
 だからいいことが無かったわけじゃないんだ。


 ただ、それ以上についてないってだけで。


 そう、今日もついてない。


 まさかインフルエンザにかかるなんて、思ってもみなかった。





 病院に行く気力なんて無くて、辛うじて電話だけは入れた。今日は彼女の番組だから休みたくなんて無かったけど、こんな状態で菌まきちらしに行くなんて問題外だし。
 天井に向かって恨み言の一つも言いたかったけど、出るのは咳ばかりだから諦めた。
 熱も咳も麻痺しちゃって、もう辛いとか思わなくなっちゃってる。
 ただ、咳き込むたびにあのときの傷がぎしぎし言うのだけが辛い。



 そういう時に限って、思い出しちゃうんだよな。




 別に、さ。
 付き合って欲しいとかそんな大それたこと考えてはいないんだけど。


 こういうとき世話してくれる人がいたらなあって、思うときはある。
 それが彼女じゃなくてもいいんだ。別に。
 …彼女だったらなあ、って思う自分がいることは、否定しないけど。



 だから多分これは夢なんだ。





「病院、行ったの?」






 そう言って心配そうに俺を覗き込む、彼女がいるなんて。






「しっ…仕事は…?」
「今日の撮りはもう終わったの。明日の朝まではオフだから。それより富野くん、インフルエンザなんだって? 大丈夫なの?」

 ……すごい、リアルな夢だなー…。
 設定も細かいし、はっきりと顔とか分かるし。
「あー、はい……大丈夫…」
「…って様子には見えないけど…病院は行ってないのね?」
 頷くと、彼女はすぐにその場から立ち上がった。
 どうやらタクシー待ってもらってたみたいで、すぐに運ちゃんが部屋に上がってくる。ふらふらしてる俺を迷惑そうに車に詰め込んで、病院へ。

「富野さーん、3番の診察室へどうぞー」

 …さすがに病院で自分の名前を呼ばれるところまで来たら、これが夢じゃないって分かる。
 
 
 
 じゃあ俺、見舞いに来てもらった挙げ句、病院に付き添ってもらったりなんかしてんの!?
 思わぬ状況に混乱しながら、先生相手にあれやこれや指示受けて、はいはいって上の空で頷く。


 注射して薬もらって、帰りのタクシーに乗って。
 隣にはまだ彼女がいて。
 思いっきり熱がある頭で、ようやく「ああうつすかも」って思った。



「…うつっちゃったら、すいません」
 彼女はちょっとびっくりした顔して、それからおかしそうに笑った。
「マスクしてるから、平気よ」
 …ほんとだ、そう言えばマスクしてる。
 眼鏡もかけてて、ああ今日はコンタクトじゃないんだなって今更思った。
 

「見舞いに来てもらうの、二回目っスね」
 熱とか出たらまだ痛む傷を無意識に押さえながら、そう言うと。
「普通、逆よね」
 彼女はそう言って、少しだけ笑う。
 …そうだよな、逆だよな。普通。
 
 ああでも、笑顔。
 マスクに隠れて見えないけど、笑顔の綺麗な人なんだ。
 笑われてるなんて情けない状況だけど、俺の言葉で笑ってもらえるならそれで嬉しいなんて。

 恥ずかしいこと考えてるって、自覚はあるけど。
 全部インフルエンザのせいにしてしまおう。





 注射のおかげか、家に着いたときにはなんとか自力でタクシーから降りることが出来た。
 降りようとした彼女を振り返って止めて、もういいですよって言う。
「ほんとに?」
「ハイ。薬ももらったし……それによりによってこんなとこスクープされたら笑えませんよ」
 いちADと彼女が付き合ってるなんて、誰も本気にしないだろうけど。
 そういうやつらの執念、嫌ってほど知ってるし。

 …ニュースでだけど、似たような事、やってきたし。

 でも彼女、そういった俺見てちょっとだけ眉寄せて。なんだかちょっとだけ寂しそうに。


「迷惑なの? …残念」


 …取りようによってはものすごく都合良く聞こえる言葉に、俺は開けた口ぱくぱくさせた。
 目が点になってる俺に、彼女はまたふわりと笑ってくれて。
 病人が遠慮しないのって俺を追い立てて部屋までついてきてくれて。
 レトルトだけどお粥まで用意してくれて。

 何が起きてるのか良くわかんないまま、お粥食べて持たされた水で薬飲んだ。
 せっかくのお粥なのに、全く味分からなかった。

 



「早く戻ってこないと、またこき使われちゃうわよ」





 お見舞いに来てくれたときと同じ台詞を、去り際に残して。
 扉が閉まって、もしかしたら夢かもだなんて考えて。


 鍋に残ったご飯粒見て、ああやっぱり本当だったんだってぼんやりと思った。












「あ、富野ちゃん。もういいの?」
「はい、すみませんでした」
 幸い今年のはそんなに酷くなかったみたいで、それから3日ばかり休んでようやく仕事に復帰できた。
 声掛けてくれた金井さんに一礼すると、いーのいーの、っていつもの軽いノリが返ってくる。
 言われた機材、ちょっと痛む傷かばいながら運んで、現場の空気を吸い込む。
 うん。
 やっぱり、働いてるのが一番いい。

「あ、そうそう富野ちゃん」
「はい?」
「お粥、美味しかったぁ?」

 持ってた機材、落とすかと思った。

「……か、金井さぁ〜ん!」
「富野ちゃん甘いね〜。なんのフォローもなしに彼女が富野ちゃんの家まで行けると思ってんの?」


 ……言われてみれば、その通りだけど。


「富野ちゃん今日はいないねって言うから、インフルエンザらしいって言ったらびっくりしてさ」
「は……」
「撮りの後オフだって言うから、かわいそうだから行ってあげてって言ったんだよ」
「はあ……」
「お粥でも作ってやってって」
「そうですか…」
 思わず力の抜けた声返したら、金井さんが大口開けて笑った。
「あ、もしかして期待した? 可愛いなあ富野ちゃんってば」
「してないっスよ!」
 嘘だけど。





 …いや、だから別に。
 付き合いたいだなんて大それたこと考えてるわけじゃないんだ。

 ただちょっとだけ、いいこととついてないことのバランスが。
 いいことの方に、傾きかけたかなあって喜んだだけで。


 ……だけど。


「おはようございまーす」


 入って一番、そう言って頭を下げる彼女が、姿勢を戻すときの視線が。
 ちょっとだけ俺の方を向く回数が増えたって思うぐらいには。

 ついてない方に傾いてるバランス、引っ張り戻してもいいのかな。












――――End.

 
半周年リクエスト企画で、「富野さんと二塚さん、プラステレビ局面々」とのリクエストを受けて書いたものです。
テレビ局面々って、金井さんしか出てなくってごめんなさい。でもこの二人を書けて幸せでした。


以下、掲載時コメントです〜。


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富野さんと二塚さんのらぶらぶしょー。
どうしてもお見舞いネタになってしまうのは何故でしょう。(Ans.富野さんがついてないから)

ありきたりでごめんなさい。
でも富野さんってあらゆる流行り病にかかってそうなイメージが。
おたふく風邪とかやりそうです、普通に。子供の頃やってなかったりとかして。…大人男性のおたふくは深刻ですが……。

ひっそり。富野さんが二塚さんの名前を呼ばないところはこだわり。

ごめんね富野さん。これでも愛してます。
そして二塚さん。……気の無い人のお見舞いになんて(しかも家まで)、行きませんよ、ねえ?(笑)