羽毛布団





 夜中に、何となく目が覚めた。
 ここの所そういう事が多い。
 何度かもう一度寝ようとして、眠気すら襲ってこないことに諦めて、天井を仰いだ。
 
 多分事件が片付くまではどうにもならないのだろうな、そう思って恭介は身体を起こす。
 
 
 テレビをつけようとして、夜は迷惑だと思い返してリモコンを戻した。
 何となく電気をつける気にもなれず、起き出してパソコンだけを起動する。
 少しでも何か調べていれば気が紛れるかもしれないと思いながら、恭介は暗い部屋の中発光する起動画面をぼんやりと眺める。
 
 夜の部屋に、一人きりの時間。
 祖父が他界してからは当たり前になっていたその時間が、妙にうら寂しいと感じる。
 漂う寂しげな空気を振り払うように、恭介は完全に起動したパソコンに手を伸ばし、半ば習慣でメーラーを立ち上げた。
「……あれ」
 寝る前にチェックしたばかりだったのに、1通だけメールが届いている。
 送信時間を確認すれば、ほんの2分ほど前で。
 
「涼雪だ…」

 送信者は「涼雪」になっていて、題名はなかった。
 中を開けば、他愛もない挨拶と、眠れなくて練習がてらメールしてみた、との言葉が浮かび上がる。
 キーボードに指を伸ばして、慌てて返事を綴った。
 
  −偶然だね。
    俺も眠れなくて、今起きたところなんだ。
    寝られないのって疲れるよな。
    色々あって疲れてるだろうから、ゆっくり休んで…。
 
 そこまで打ったところで、ふと指を止めた。
 しばらく悩んで、少しそっけない言葉になるかと思いながらも、最後の一行を削って送信する。
(…寝てるのなら、それに越したことはないんだけど……)
 思いながら、メーラーをそのままでブラウザを起動した。
 裏サイトへのアドレスを打ち込もうとして、その指先が止まる。
「……今、行ってもな…」
 結局呼び出したのはいつも利用している検索エンジンで、あてもなく今回の事件のキーワードを打ち込んでは調べはじめた。
 
「…」
 5分ほど経ったところで、メールの受信音が鳴った。
「……あれ」
 夜中に二通も来るなんて珍しい、と思いながらもう一度メーラーを確認する。
 宛先は涼雪になっていた。
「…寝てないのか…」
 パソコンの練習でもしていたのかもしれない。そう思いながらメールを開く。
 
 
  −うん、ちょっと疲れる
 
 
 一行だけ返ってきている返事に、恭介はつい吹き出した。
「…チャットじゃないんだから」
 呟きながら、返信ウィンドウを立ち上げる。
 
 
  −涼雪、チャットって知ってる?
 
  −チャット…なに?
  
  −電話と同じで、パソコンに会話を打ち込んで話が出来るんだ。
    掲示板ってあるだろ、あれに交互に書きこみしている感じかな。
   
  −掲示板、知ってる
    今恭介としてるのは違う?
   
  −これはメールだしね。
    やってることは一緒なんだけど。
   
  −むずかしいことわからない
    恭介と話できてるから、これでいいね
 
 
 返事を見て、ふと恭介は笑う。
(…そうだな)
 不器用なやり方は自分たちらしいかもしれない。
 
 
  −俺も、そう思う。
    涼雪、ずいぶんメールうまくなったね。
  
  −恭介のおかげ、ありがとう
    でもまだちょっと、送るのに時間かかるね
   
  −俺でよければいつでも付き合うからさ。
    これぐらいなら、頼りにしてくれていいよ。
 
 
 
「……あれ」
 
 
 2、3分に一度のペースで送られてきていたメールが、そこで不意に途切れた。
 10分経っても戻ってこないメールに、恭介は首を傾げる。
(何も言わずに会話を終わらせるような子じゃ、ないと思うんだけど……)
 思いながらブラウザを再度立ち上げ直したところで、また受信音が鳴った。
 慌ててメールを確認すると、内容には一言だけ。
 
 
  −ありがとう
 
 
「…涼雪……」
 
 
 
 不意に、その顔が見たくなった。
 焦って転送ボタンを押し間違えたりしながら、メールの返信ウィンドウを開く。
 
 気持ちのまま言葉を打ち込もうとした手が、ふと、止まった。
 
「……」
 
(……無理、だよな)
 
 時間を確認すると、夜の2時。
 こんな時間に一人で歩かせられないし、自分があのマンションまで行くにも時間がかかる。
 車は持っていないし、電車も動いていない。
 
 空のままのウィンドウを、じっとみつめる。
 
 
  −うん
 
 
 ようやく、それだけを打ち込むことが出来た。
 そこで指が止まってしまい、悩んだ挙げ句にそのまま送信する。
 
 いかに言ってもそっけなさ過ぎただろうかと少し後悔していたところへ、今度はすぐに返事が返ってきた。
 
 
  −恭介は、あったかいね
  
 
 返ってきた言葉は、涼雪らしい言葉で。
 
 
 ふと触れた頬が、どことなく上気していて。
 おそらく涼雪も同じ気持ちなのだろうかと思いながら、その意味を噛み締める。
 そのまま照れ笑いを忍ばせて、恭介は再びキーボードに手を伸ばした。
 
 
 
  −涼雪だって、あったかいよ
  
  −ううん、恭介の方があったかい
    羽根のふとんみたい
  
  −羽毛布団?
 
  −あ うん そう
    羽毛布団
   
  −そうかな?
  
  −うん やわらかいし あたたかい
 
 
 
  
  
  −…だったら、涼雪もそうだよ
 
 
 
 
 
 
 軟らかで、暖かくて、ふわふわと幸せで。
 あなたとの時間は、まるで羽毛布団。
 
 
 
 
 
 
  −しぇしぇ
  
  −うん、俺もありがとう
  
  −なんだか、今なら眠れそうね
  
  −そう? じゃあ、今のうちに寝る?
  
  −うん 恭介も寝る?
  
  −俺も寝るよ
  
  −わかったね
    じゃあ おやすみ恭介
   
  −おやすみ、涼雪
 
 
 
 
 距離も時間も隔たりなく、届けられる言葉に。
 ふわふわと揺らされる、ゆりかごの中。
 
 
 
「…俺も、今なら寝られるかも」
 
 
 
 呟いて、メーラーを閉じる。
 パソコンの終了音が暗い室内に響き渡って、部屋の中に唯一ともっていた明かりが消える。
 
 部屋を横切って、ベッドに横になる。
 今の時期、さすがに布団は掛けられないけれど。
 
 
 
 
 冬になったら、今年は奮発して羽毛布団を買おう。
 そう思いながら、恭介はゆっくりと目を閉じた。



 







――――End.

 
半周年リクエスト企画で、「恭介と涼雪の幸せな話」とのリクエストを受けて書いたものです。
ほんわかした雰囲気を目指してみました。なので「羽毛布団」。


以下、掲載時コメントです〜。


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どうしようか悩んだんですけど、捏造時間です。
あってもいいし、なくてもいい時間。
 
 
というか3話に捏造入れ込む余裕がありませんでした。
ご、ごめんなさ……。
 
 
む、難しいなあ涼雪は……。
そして
 
男女物の萌えポインツがわからない……。
 
 
 
 
…ともあれ、書いてて一人ほんわかしていたのは事実です。
自分が書いてて楽しかったのでよし(ええっ!)。
 
 
リクエストありがとうございました!!