雲の彼方  <2月10日>





「いやあ悪い悪い! すっかり遅くなっちまったなあ」
 事務所の定位置に陣取って煙草に火をつけながら、誠司は向かいに座った恭介にあまり謝罪にも思えない言葉を吐く。
 京香はお茶を入れてから、デスクで何か作業をしていた。こちらをうかがう様子も無く、一心に何かを書き付けている。
「いえ、別に……それで所長、その」
「で? お友達の進路調査表は見つかったのか?」
「………」
 会話を遮る以前の問題だ。
 おそらく恭介が語るまで、誠司は何も喋るつもりはないのだろう。京香も同席しているし、どちらにしろ詳しい話はできない。
 恭介はため息を押し隠して、見つかりましたよとポケットからその紙を取り出した。
「昨日の電話でも言いましたけど、警察に届けられてました。正確には氷室さんが拾った、ですけど」
「どこで拾ったって?」
「数見町で、だそうです。森川の部屋に空き巣…というか、侵入者があって、氷室さんが個人調査してたときに発見したとか」
 頷いて、誠司はテーブルに広げられた進路調査票をまじまじと眺める。
 奈々子の名前に二重丸のつけられたそれを見る視線には、驚きも困惑も感じられず、ただ冷静さだけが窺い知れた。
「侵入者の方はわかってるのか?」
「それが…空き部屋で何も取られていないし、目撃証言とかは全然出てないらしくて……今のところは何も」
「ふーん。他には?」
 視線を持ち上げて、誠司は先を促す。含まれる響きになぜだか試されているような気になって、自然指先にも緊張が走った。
「白虎会の人が、数見町の路地裏の方で拳銃を拾ったそうです」
「拳銃…?」
 そこで初めて、誠司が意外そうな声を上げた。恭介は瞬いて、それから頷く。
「黒い紙袋に入って、路地裏の目立たないあたりに置いてあったそうです」
「種類は?」
「さあ、そこまでは…」
「じゃあ場所」
「……哲平に頼んであります」
「さすが俺の弟子」
 自分を褒めたのか恭介を褒めたのか判らない口振りで、誠司はふ、と唇を歪めた。
 恭介も苦笑する。
「それじゃあワトスン君の回答待ちってとこだなあ」
 顎を撫でながら、考え込む風に俯いた誠司に、恭介は緊張した目を向けた。
「何か、関係あると思ってます?」
「関係あると思ってるのは、俺じゃなくてお前だろ」
「……」
 恭介はゆっくりと息をつきながら、広げられた進路調査票を見下ろす。

 ここで、この二つを繋ぐ線が途切れてしまえば、自分には糸を繋ぐあては何もない。

「そう……ですね……」
 何かあれば。
 そう思って必死に繋いだ線に偏りかけていた思考を、恭介は無理矢理平らに引き戻した。
「……すみません」
「賢明な弟子は嫌いじゃないぞ。精進しなさい」
「…はい」
 台詞に苦笑すると、誠司は煙草を取り出して火をつけた。
「お前、これからどうするんだ?」
「……所長の話を聞きたいんですけど」
「あー、俺ね」
 眉を寄せてやや視線を逸らす。
 息をつくと、唇に乗せた煙草から立ち上る煙の向こうで、誠司は意地悪くその口の端を持ち上げた。
「そんじゃ、第二ヒント」
「……え」
「『鍵は愚者の言霊』だ」
「な……なんですかそれっ!」
 思わぬ言葉に目を見開く恭介に、誠司は笑みを崩さずに煙草から灰を落とす。
「はやくしねえと時間切れになるぞ」
「時間切れって……所長、何か知ってるんですね」
 驚きを確信にすりかえて、恭介はまっすぐに誠司を見返す。誠司は笑みのままもう一度紫煙を吐き出した。
 その表情からは、何も読み取れない。
「確実に言えるのはこれだけだ。後は予測だからな」
「予測って……所長、だから何か」
「あ、俺そろそろ行くわ」
「所長!」
 火のついたままの煙草を口にくわえて立ちあがった誠司は、恭介の呼びかけにも反応せずさらりと手を上げる。
「また京香に連絡入れるから。じゃあな〜」
 軽い声と共に、事務所の扉は閉じられた。







「……」
 呆然とその後姿を見送った恭介は、言われた言葉を脳内で反芻する。
(……『鍵は愚者の言霊』………?)
 何度繰り返しても意味が読めない。
 そのまえに何故誠司が「ヒント」と称して言葉を残していくのかも判らない。
(何なんだ、一体…)
 からかわれているのか、それとも事態が深刻なのか。だんだんと判らなくなっていく流れを、恭介は必死で整理しようと深呼吸をした。
 誠司の楽しそうな笑顔を打ち消しながら、必死に流れを思い返す。
(………駄目だ)
 室内に残る煙草の匂いに、自然と灰の残った灰皿を見つめる自分に気づく。
 冷静に思考するには、先ほどの混乱が残るこの場は向かない。
「京香さん、俺も調査に出てきます」
 昼も近いしサイバリアにでも行こう、そう思って立ちあがる。呼びかけた京香は半拍置いてから、勢い良く顔を持ち上げた。
「あ、う、うん。分かったわ」
「はい」
 言いながらコートを手に取る。財布を探しながら事務所のドアに手をかけると、ふと後ろから投げられている視線に気がついた。
 振り返ると、デスクから立ちあがった京香がじっとこちらを見つめている。
「…真神くん」
「…は、はい」
 その緊張した表情に息を飲んで、恭介は身体ごと京香に向き直った。
 何か話してくれるのだろうか、と同じく表情を引き締めた恭介に、京香はふっと目を伏せる。
「……」
 口が何事か動いたのが見えた。音として発せられなかったその言葉は、空気と共に力無く床に落ちる。
 問いただそうかと思ったが、結局恭介は沈黙で返した。
 その場に、沈黙が落ちる。
「あの……気を…つけてね」
 視線を落としたまま、京香は結局そう言葉を落とした。
「…はい」
 その言葉に一礼して、恭介は事務所を後にする。


「……ごめんなさい」


 そう呟く京香の言葉を、聞き届ける事無く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 湿った路地裏で、手元のメモと辺りを見回した哲平は、露骨に眉を顰めてため息をついた。
「にーさん、地図下手すぎや……あーもう、昼過ぎとるやん……」
 朝一番でメモを受け取って数見町に足を踏み入れたのは朝10時前だった。現在時刻は午後3時。
「腹減った〜…」
 それでもやっと現場まで到着することが出来た。愚痴をこぼすのはそこで止めて、哲平はもう一度周囲を見回す。
 見回した場所は、空気がよどんで薄汚れてはいたが、それでも日常から切り離されているほどではなかった。近辺の住人のごみ捨て場らしく、おそらく人も行き交う場所だ。
「ごみ捨て場なんてこんなもんやろなー」
 南京錠式の鍵の掛かるタイプのごみ捨て場で、その脇にあるフックに引っかけてあったと言う。恐らく、外した鍵でもかけておくのだろう。子供の背丈よりやや低いあたりに設置してあるその鉤型のフックを眺めてはみたが、なにも変わった様子はなかった。その周囲を歩きまわってみたが、何もないどころか人も通らない。
 収集日でないごみ捨て場に近寄る者もいないだろう、と哲平は早々に諦めて、ポケットの携帯電話に手を伸ばした。
 数回のコールの後で、相手が電話に出る。
『哲平?』
「はろー恭ちゃん。ついたでー」
 電話に向かって陽気に声を投げながら、哲平はごみ捨て場の前を離れた。そのまま、路地裏を来た方向へと戻る。
『遅かったな。確か朝一で地図もらったって言ってなかったか?』
「そうなんやけど、にーさんの地図が分かりにくうて…」
 言いながら哲平は路地の入り口から大き目の通りを覗き込む。
「えっとな…ガソリンスタンド見えるわ。そこの二つ目の角はいったとこで…」
『あ、ちょっと待って。氷室さん、ガソリンスタンドだそうです』
「あれ? 恭ちゃんVIPにおるん?」
『VIP言うなって! 氷室さんに聞きたいことがあって……あ、はい。えっと哲平、今もしかしてごみ捨て場の前とか?』
「ああ、そや」
『右手の下の方に引っかけるような所があって、看板に、名前が…』
 恭介が言う集配所の名前を聞きながら、哲平は慌てて取って返す。
「…ビンゴ、やな」
 聞いたものと全く同じ言葉が、そこに記されていた。
 答えに、電話の向こうから届く声が僅かに硬さを帯びる。
『わかった。じゃあ悪いけどしばらくそこにいてくれるか?』
「ああ、ええよ。何なら表通りまで出とく……ったあ!」
『哲平!?』
 不意に背中から派手な衝撃が走り、思わず声を上げる。腿から腰のあたりに何かが衝突したようだった。
 何となく覚えのある感覚に薄目を開けて振り向くと、予想通りの相手が半泣きでそこにいる。
『哲平っ!』
 判っていたとはいえ、驚きにしばし言葉を失っていると、焦った声が電話から追ってきた。
「あー………、恭ちゃん」
 間の抜けた声を上げると、電話の向こうで詰めた息を飲み込む気配がする。
『…ああ、もう……びっくりさせるなよ……』
「スマン、大丈夫や。ちょっとな…」
『……どうしたんだ?』
 見下ろした相手と視線を交わして、哲平はもう一度大きくため息を吐いた。
「あんな……集合場所、変えてもええ?」
 
 
 
 
 
 
 
 指定された待ち合わせ場所はハードラックだった。
 夕暮れが迫る枕ヶ崎の通りを足早にすり抜け、恭介はもう見慣れてしまった扉に手をかける。
 抵抗なく開いた扉の向こう、カウンターに先客が座っていた。
「哲平、一体何があっ………」
 言いかけた言葉は宙に浮いた。拾って飲み込む前に、哲平の隣に座っていた小さな影が振り返る。



「つ……紫宵っ!?」



 予想外の相手に呆気に取られている恭介に構わず椅子から飛び降りると、紫宵は荒い足音を立てて駆け寄ってきた。
 そのまま、力いっぱい恭介の足にしがみ付く。
「え、な、ど、どうしたんだ?」
 紫宵に懐かれるなど今までなかった恭介は、うろたえながら足元を見下ろした。
 その後ろから歩み寄ってきた哲平も、困惑した様子で頭を掻いている。
「わからへんねん。あんとき後ろから突撃してきたんやけど、それからずっとその調子や。全然喋らん」
「…紫宵、何があったんだ?」
 しがみ付いている紫宵を引き剥がすと、恭介はしゃがみこんで視線を合わせた。
 じっと俯いたまま唇を引き結んでいるその顔に、微かに躊躇いが見える。
 すぐには無理だろうかと哲平に視線をやったところで、恭介の上着の裾が引かれた。
「……見習いは、探偵なんだろう?」
「え? あ、ああ…一応ね」
 唐突に落とされた言葉に頷くと、紫宵は俯いていた顔をがばっと持ち上げた。
「な、奈々子さんがお前のこと信じてるからぼくもお前のことを信じてやる!」
「は?」
 唐突に出てきた奈々子の名前に、恭介は目を丸くする。紫宵は必死の表情で、恭介の上着を握り締めてきた。
「探偵と言ったら探すんだろう!?」
「……ま、まあ…」
 困惑して哲平を見上げると、紫宵の隣にしゃがみこんで同じように視線を合わせてきた。
「探すのが商売やからな」
「じゃ、じゃあ落とし物も?」
「ものによるけど……落し物だったら警察に行った方が早いんじゃないか?」
「………けいさつ」
 そこですとんと紫宵は黙り込んだ。
 恭介はふ、と眉を寄せる。
「…もしかして、やばいものなのか?」
 そのあたりにいる子供とは違い、紫宵は張海飛の孫だ。あの海飛が紫宵に危険なものを持たせるとはとてもではないけれど思えないが、もしかしたら、ということもありうる。
「………」
 そして。
「紫宵?」
 このタイミングで、数見町にある、かもしれない、やばいもの。

「……黒い、袋……」


 
 
「お……お前かぁーっ!」
 
 


 哲平のやりきれない叫びが、ハードラック内に響き渡った。






「だっ、だってしょうがないだろー! 暗かったし、袋は黒いし見えなかったんだ! しょうがないから明るくなってから探しにこようって思って、そしたらおじいさまがお昼まで家にいらっしゃって……夕方、行ってみたらもうなかったから」
 先細りになる台詞を聞きながら、哲平はがっくりと肩を落として項垂れている。横目でそれを見やりつつ、恭介は紫宵の肩を叩いて先を促した。
「それで? なんでそんなものを持ってたんだ?」
「……奈々子さんに」
「は?」
「年末も年明けも会いに行けなかったから、久しぶりに奈々子さんに会いに行こうと思って……。おじいさまがいつも高い宝石買っている外国人から受けとって高く買うって言ってたから、きっと綺麗な宝石だって思って、ちょっと借りて見せてあげようって思ったんだ」
「……」
 その時点でかなり間違っているのだが、二人とも何かを言う気力はなかった。
 紫宵は俯いて自分の掌を眺めている。
「そしたら、奈々子さんお店にいなくて……。一回持って帰って」
「…え? そのとき落としたんじゃないのか?」
「違うぞー! それは次の日だ。もう一回店に行こうとしたら誰かがあの道へ入って行ったのを見つけて、怪しかったからつけてたら消えたんだ! あれは絶対悪者だぞ!」
「……………」
「その悪者追いかけてたら……気がついたら、なかったんだ」
 口出しのしようが無い状況に、哲平は露骨なため息をつく。
「な、なんだよー! 言っとくけどな、すぐ返すつもりだったんだぞ!」
「…結局返せてへんやないか」
「だ…だからこれから探すんだ! 見習い、お前探偵なんだろ! 探せよー!」
「………」
 返す言葉を探せずに、恭介は額を押さえる。
 探すも何も、既に在所は割れているのだが、こうなると取り返すのも難しい。それどころか、下手をすれば白虎会のお怒りを買いかねない行為だ。
「哲平、どうしよう…」
 思わず水を向けると、哲平は立ちあがって頭を掻いた。
「どうしよ言われてもな…」
 困り果てた表情でそう漏らす。
 眉を寄せて言葉を交わす二人を、紫宵が首を振って見比べた。
「見つかるのか? なあ?」
 その無邪気な様子に、恭介はふと眉を寄せる。
 そう言えば先ほどから紫宵は、無くしてしまったと落ちこんではいても焦ってはいないようだ。
「…紫宵。聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「その『黒い袋』の中身…見たのか?」
 言葉に、紫宵は首を傾げた。
「宝石…じゃないのか?」
 無邪気にそう告げてくる紫宵に、恭介は眉を寄せてもう一度尋ねた。
「……見ては無いんだな?」
「奈々子さんと一緒にびっくりしようと思って見てないぞ。あいつからおじいさまはいつもいっぱい宝石買ってるから、きっと大きい宝石だと思って……」
 台詞を聞きながら、恭介は考え込む。


 外国の宝石商が持ってきた、「価値のあるもの」。
 その中身は、宝石ではなく拳銃。


「紫宵。わかった、探すよ」
「ほんとか!?」
 紫宵の顔が喜びに輝く。 恭介は頷いて、膝を伸ばして立ちあがった。
「今すぐは無理だけど…張さんのほうは大丈夫か?」
「おじいさまなら大丈夫だ。今日のお昼過ぎに出かけて、4日は帰らないって言ってたぞ」
 その台詞に、恭介は哲平と視線を交し合う。
「…4日……か」








「……どないなっとんねん」
「っていうか、どうしよう…」
 紫宵を帰して、仕込みの終わったサミーから酒を受け取った二人は、同時に天井を仰いだ。
 その眉尻は情けないぐらいに下がっている。
「…白虎会の人達に言って返してもらうって…」
「無理やろな。…少なくとも、今は」
 ただでさえ数見町の侵入者の件で緊張している糸を切るようなものだ。
 久蔵が纏め上げていただけあって冷静な人間が多いが、それにしても機が悪すぎる。
「……にーさんらに話つける前に、ご隠居に話通しとくべきやろな…」
「…不本意だけど、ね」
 白虎会が絡んでくることを、久蔵に黙っているわけにも行かない。事はまだ下っ端の大騒ぎで止まっているかもしれないが、これが張海飛がらみとなると話がどんどん膨らんでしまう。
「哲平、俺も行こうか」
「いや、今日は遅うまでご隠居戻らんし。明日朝言うわ」
「…分かった」
 頷いて、恭介は酷く疲れた顔でグラスを転がす。どうしても口に含むきっかけを掴めないようで、哲平は口の端に笑みを乗せると、ドライマティーニをすっと煽った。
「シゲから電話あってな。今日は来れへんて」
「なにかあったのか?」
「別の取引やと。一応聞いといたけど、明日は来れるからまとめて話す言うてたで」
「じゃあ…明日もここで集合、か」
 毎晩来てるよな、と恭介が苦笑すると、哲平は空いたグラスを弄びながら同意する。
「どっちにしろあのやかましいガキが来んな言うても来るやろ」
「あ、そっか」
 頭の痛い問題が再び舞い戻ってきて、恭介は深いため息をつく。
「………それに…」
 連鎖的に朝の出来事を思い出して更に頭を抱えた恭介に、哲平が眉を寄せた。
「なんや?」
「今朝…所長に話聞いたんだけどさ」
 そこで聞いた「鍵は愚者の言霊」というヒントの話をする。
 始めは真剣に聞いていた哲平も、話が終わる頃にはカウンターに身体を投げ出していた。
「もー。わけわからんわ。大将遊んでるんちゃうの?」
「俺もそんな気がしてる………」
 結局口がつけられていないジンライムのグラスが、じわりと汗をかきはじめた。濡れた指先でカウンターに意味も無い模様を描きながら、恭介は疲れたように呟く。
「京香さんの様子がおかしいのを所長も心配してたはずなのに、諏訪さんに会ってからはぜんぜんそんな様子が無いんだ。何か聞いたからなんじゃないかな…とは思うんだけど……」
「よりにもよって「ヒント」やからな…」
「……まあ、これについては少し考えてみるよ」
「ああ、こればっかりはオレお手上げやから。頼むで」
「……うん」
 そこで会話が途切れた。少しずつ舐めるように、喉へと酒を流しこむ。
 結局半分干さないままに、恭介はグラスを置いた。










「……哲平」
 家の前まできたところで、恭介は苦笑してやや後ろを振り返った。
「ん?」
「いいよ、ここで」
「家まで行くて。可愛い恭ちゃんが襲われたらどないすんねん」
「いや、襲われないから」
 きっぱりと言いきって、恭介は立ち止まる。
 やや遅れて立ち止まった哲平は、頭を掻いて首を傾げた。
「いやー。恭ちゃん変なんに好かれやすいからなー。いつ何時だれにさらわれるか」
「……馬鹿なこと言ってないで、ほら、もう帰れ」
「いけずやなー、もう」
 つらつらと言い募ろうとした哲平の台詞をさらりとさえぎった恭介に、哲平は苦笑を浮かべる。


「…大丈夫だから」


 恭介は苦笑をなんとか笑みに変えて、哲平を見返す。





「…ん、分かった」
「うん、ありがとう」



 踵を返す寸前、哲平は掌をひらりと上げる。

「明日な」
「…うん」







 また明日。

 そう、まだ、明日がある。





「……鍵は、愚者の言霊……」





 哲平の背を見送って、恭介は自分の部屋の鍵を取り出して、握り締めた。




「…愚者…か……」







――――Next.

 
……おかしいなあ……。
あの、えっと。話がでかくなってませんか。

これ予定内で終わるかどうか激しく不安になってきたんですけど。


紫宵難しいです。ごめんなさい。
っていうかおかしいな。そろそろ回収段階に入らないと終わらないんですけど。
どうしようごめんなさい。キャラと設定が暴走してる…。




……頑張ります。