伝えられるなら、何を最初に誓おうか。





 冷空





「寒い!」
 …開口一番、それですか。
「せやからねーさん、車ん中上着…」
「動きにくいからヤダ」
「…どうせえっちゅーんですか…」
 せっかくフォローに入った哲平も軽く一刀両断して、成美さんは寒そうに身体をさする。
「もー、だれよぉ。初日の出が見たいなんて言い出したの」
「…お約束だけど、成美さんだよな」
「お約束やけど、な」
 愚痴に思わず哲平と囁き合うと、一拍も置かずに成美さんの視線が突き刺さってくる。
 …痛い。
「成美! いい加減我侭言うのやめなさいよ」
「だって寒いんだもん」
「…あのねえ! 大体ここへは誰の提案で」
「あーはいはい、そこまでそこまで」
 いつもの如く剣呑な雰囲気になりかけた場を、呑気な声があっさりと遮る。
「喧嘩を見るのは嫌いじゃないが、新年早々はやめとけ、な」
 所長はふかしていた煙草を口に咥えて、京香さんと成美さんの頭を同時にぽんぽん叩いた。
 …あれは俺達には出来ないよな…。
 京香さんは顔を真っ赤にして黙り込んじゃうし。
「煙草臭い」
「おー、そーかそーか、そりゃあ悪かったな」
 眉をしかめた成美さんにも軽く笑いで流すし。
 こういう所も敵わないよなぁ…。
「みならいー! ねーねー。あれ! あれそうだよね!」
 奈々子の声はただでさえ大きいのに、この寒い早朝には余計に響く。
 …新年早々、見習い呼ばわりか…もう慣れたけど。
「それは雲だろ」
「へ? でも赤いよー」
「それは下から照らされてるだけだって。でもここまで明るくなってくるともうすぐだろうな」
 白む、という表現が一番似合うような空の色からは、そろそろ日が昇ってくるのが判る。
 遠羽山の東一角なのに、俺達以外の人が一人も居ない。いわゆる「穴場」ってやつかな。
 所長が運転して来たんだけど、本当変なことばかり知ってるよな、この人は。
「ったく、裕ちゃんも来れば良かったのになあ」
「奥さんも娘さんもいらっしゃいますし。ご家族が優先なのは仕方ないですよ」
 一緒に来るって選択肢もなかったわけじゃないけど、氷室さんはやんわりとそれを断ってたし。
 それに…この面子の中へいきなり娘さんを放りこむのも申し訳ないよな…。
「う〜…寒いわねえ。ちょっとてっぺー、ひとっ走り行ってきて太陽持ち上げて来なさいよ」
「無茶言わんといてくださいよ! 熱うて無理ですって!」
「…いや哲平、熱いとか以前の問題だと思うぞ…」
 とりあえず横から弱々しくツッコミを入れてみたけど、多分判って言ってるんだろうな…。


 ここに来たのは確かに、成美さんの「初日の出見たい」の一言だった。
 成美さんから外に出たいって言い出すのは珍しいし、リハビリにもなるだろうからと思って引きうけたんだけど…。
 なんだかいつの間にか大所帯になっちゃってるし。
 奈々子が身を乗り出すようにしてるのを、京香さんが支えながら一緒に東の空を眺めている。哲平は成美さんから逃げて、ちょっと離れたところで所長と煙草吹かしはじめた。当の成美さんは寒い寒い言い続けた挙句、近くに止めたままの車に乗りこんでしまってるし。


 日の出まで、まだありそうだしな…どうしよう。



 ■奈々子と京香さんに話しかける
 ■所長と哲平に話しかける
 ■車に乗りこんで成美さんと話す









――――Next.